稲庭うどんの切れ端がクラフトビールに!秋田の食を生かし切る「廃棄ゼロ」の一杯【秋田県湯沢市・羽後町】

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2026年7月3日撮影

秋田県羽後町西馬音内(うごまち にしもない)にあるBeer Cafe「蔵しこ」を訪れた。その日はこの店を直営する株式会社羽後麦酒のクラフトビールを楽しみ、帰り際におみやげを探して商品を眺めていた。そこで目に留まったのが、「稲庭うどん小川」の「INANIWA HAPPOUSHU―稲庭発泡酒」と書かれた一本である。

「稲庭うどんが、ビールになってる!?」

2026年7月3日撮影

稲庭うどんといえば、秋田県湯沢市を代表する名産品。その名前やロゴがビールの瓶に記されていることが気になり、思わず手に取った。調べてみると、この発泡酒は稲庭うどんを製造する際に生じる「切れ端」を使用し羽後麦酒が製造していた。

商品にならない切れ端を、捨てずに生かす

稲庭うどんは、乾燥させた麺を一定の長さに切りそろえて商品にする。その工程では、長さ数センチほどの切れ端が発生する。味や品質は通常の稲庭うどんと変わらず、食べることもできる。しかし、短いため通常の商品として販売することが難しく、稲庭うどん小川では費用をかけて処分していたという。

湯沢市が公開している情報によると、同社は湯沢市ビジネス支援センター「ゆざわ-Biz」に相談し、約1年にわたって切れ端の活用方法を検討したそうだ。

その一つが、高齢者福祉施設への寄贈。商品としては成立しない約3センチという短さが、かむ力の弱くなった高齢者にとっては食べやすさにつながった。施設へ寄贈したところ好評で、別の施設への寄贈にも広がったという。

そして、もう一つの活用方法として生まれたのが、切れ端を副原料に使った発泡酒である。

湯沢市の稲庭うどんと、羽後麦酒が出合う

同じころ、羽後麦酒はゆざわ-Bizにビールや発泡酒の副原料に地元の食材を使いたいという相談をもちかけていた。

稲庭うどんは小麦粉からつくられる。ビールにも、小麦を原料の一部に使うホワイトエールがある。稲庭うどんを使っても、おいしい発泡酒ができるのではないか。二つの相談が結びつき、稲庭うどん小川と羽後麦酒による商品開発が始まった。

ただし、稲庭うどんには製造時に塩が練り込まれている。塩分を含むうどんを副原料にすると、味や発酵にどのような影響が出るのか分からない。そこで、秋田県総合食品研究センターで発酵試験や成分分析を実施。塩分濃度を変えながら味を分析し、稲庭うどんが使われていることを感じられるよう、ほのかな塩味を残すことにしたそうだ。

半年以上をかけて開発され、2023年7月20日に完成したのが「INANIWA HAPPOUSHU―稲庭発泡酒」。

初回に製造した300本はすぐに完売し、その後、増産が決まった。2023年には「新東北みやげコンテスト」のアイディア特別賞も受賞している。

塩気がビールの「うまみ」に

グラスに注いだ「稲庭うどんのビール」2026年7月3日撮影

家に帰り、さっそく飲んでみた。
口に含むと、確かにほのかな塩気が感じられる。ただし、しょっぱいという印象ではない。塩気が味に厚みを与え、私にはビールの「うまみ」のように感じられた。

そこで一つ後悔した。「稲庭うどんを食べながら飲めばよかった~!!」

稲庭うどんの切れ端から生まれた発泡酒を、稲庭うどんと一緒に味わう。爽やかな苦みや塩気が、麺の風味とどのように重なるのか。そう考えると、試さなかったことが惜しくなった。

廃棄されていたものから、地域ならではのビールを造る

羽後麦酒では、稲庭うどんだけでなく、秋田県産のさまざまな素材を使ったビールを造っている。定番商品に加え、地域の素材や一風変わった材料を使った限定商品も、小ロットで製造している。その一つが、湯沢市の「いぶりがっこ本舗 雄勝野きむらや」と共同開発した「いぶりクラフトエールMANTZNAR(マンツナー)」である。

使われているのは、いぶりがっこそのものではなく、燻(いぶ)した大根を漬けた後に残る漬け液だ。これまで廃棄されていた漬け液を副原料として活用し、ほどよい燻製の香りと素材のうまみを感じられるペールエールに仕上げている。

いぶりがっこ本舗 雄勝野きむらやにて:2025年8月23日撮影

こちらも以前に飲んだことがある。やはり塩気と独特の香りが印象的で、まさに「飲むいぶりがっこ」と呼びたくなる味だった。

稲庭うどんの切れ端も、いぶりがっこの漬け液も、商品の製造工程では不要なものとして扱われてきた。しかし、そこには原料の風味やうまみが残っている。

羽後麦酒は、それらを醸造技術によって、地域でしか造れない新たな一杯へと変えている。

地域の歴史を残した場所で、伝統が新しい価値に生まれかわる

蔵しこにて:2026年6月26日撮影
蔵しこにて:2026年6月26日撮影

私が稲庭発泡酒を見つけたのは、稲庭うどんの産地である湯沢市の隣の羽後町。日本三大盆踊りの一つとされる西馬音内盆踊りが受け継がれてきた、長い歴史と文化が息づく土地だ。

羽後町西馬音内にある羽後麦酒の直営店「蔵しこ」も、地域の歴史を今に残す場所である。明治時代初期に建てられた旧大野邸を改修し、既存の蔵や梁などを生かしてつくられた。「貴重な建物を簡単になくしてしまうのはもったいない」という思いから、保存、活用されてきた。

蔵しこにて:2026年6月26日撮影

古い建物を壊さずに生かした場所で、捨てられるはずだった稲庭うどんの切れ端から生まれた発泡酒が造られている。

地域の誇りを醸す。サステナブルな一杯の可能性 

稲庭発泡酒は、今後も製造される予定だという。羽後麦酒代表の斎藤隆弘さんは、発売当初の反響と今後について、次のように話す。

「稲庭うどんを使った商品ということで発売当初話題になりました。うどんはかなり塩味があるので、ゴーゼというビアスタイルに向いていると当初より感じています。今後はその方向での製造へと向かうつもりです」

ゴーゼとは、塩味や酸味を特徴とするビールのスタイル。私が飲んだときに感じた、しょっぱさとは異なる「うまみ」のような塩気も、今後は商品の個性としてさらに生かされていくのかもしれない。

「いぶりクラフトエールMANTZNAR」についても、斎藤さんは「スモークエールというビアスタイルに近いこともあり、反響も良く、継続可能な商品となっています」と話す。

稲庭うどんの切れ端には塩気があり、いぶりがっこの漬け液には燻製の香りがある。製造工程では不要とされたものに残る特徴を、無理に消すのではなく、ビールの個性として引き出している。

「廃棄ゼロ」や「サステナブル」という言葉は、ともすれば環境のために我慢する取り組みのようにも聞こえる。しかし、稲庭発泡酒もマンツナーも、廃棄物を使っているから選ばれるのではない。塩気や香りをもつ、その土地ならではの一杯として飲まれている。

捨てられるはずだったものが、継続的に造られる商品になり、また飲みたい味になり、さらに誰かに飲ませたい味になる。そこに、この取り組みの面白さがある。

ちなみに羽後麦酒では小ロット生産の柔軟性を生かし、好みや使用目的に合わせたオリジナルビールの醸造にも対応してくれるそうだ。秋田の食材から誕生するビールがまだまだ増えそうだ。

次にこれらのビールを飲むときは、稲庭うどんにいぶりがっこ、秋田の地域の誇りをずらりと並べて挑もう。もはや晩酌ではなく、「秋田フェス」を。

※写真はすべて筆者撮影

情報

株式会社羽後麦酒
HP:https://ugobakushu.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/ugobakushu/

beercafe蔵しこ
Instagram:https://www.instagram.com/beer.cafe.classico.ugobakushu/

天野崇子

天野崇子

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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