「美しい糸」によって動き出した運命。引き寄せられてたどりついた西表島の「生命力の強さ」を手に取ってほしい【沖縄県竹富町】

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沖縄県は2023年度、たくさんの「お宝=魅力」をもつ離島各所の事業者さんたちが、SNSなどの『デジタルツール』を利用してさらに魅力的な発信をしていけるように「沖縄県主催🌺価値を伝えて売りまくるためのデジバズ講座」という取り組みを行っています。この記事は、参加された事業者さんを対象に、「ローカリティ!」のレポーターがその輝く魅力を取材し執筆したものです。沖縄離島の魅力をご堪能ください。

原始のジャングルのような密林であふれ、東洋のガラパゴスとも呼ばれ、天然記念物の「イリオモテヤマネコ」が生息する島としても知られている西表島(いりおもてじま)。

そんな西表島の植物の繊維を使用して糸をとり、その糸で織物を織ったり、島の植物の色素を利用して染め物をしている工房があります。

体験工房ゆくいにて、糸の魅力について話す永露さん

「体験工房ゆくい」の永露芳子(ながつゆよしこ)さんは、芭蕉(ばしょう)というバナナの木によく似た植物や、苧麻(ちょま)という麻の一種の植物の繊維をとって、日常に使える小物や記念に残る作品を織ったり、植物の色素を使用し、Tシャツやストールなどの布製品を染めるなど、島を訪れた人に、島の「生命力の強さ」をお土産に持ち帰ってもらいたいと観光に来た人たちに体験を通し伝えています。

※芭蕉の花

病気見舞いにもらった一冊の雑誌。そこから運命が動き出す

生まれも育ちも福岡県。永露さんは興味のあった服飾を学ぶために高校を卒業後上京します。東京で働きながら過ごす中で、ご縁があり結婚、家庭を築き子供にも恵まれ、仕事も持ちながら毎日忙しく充実した日々を送っていました。

しかしそんなある日、突然の体調不良に見舞われます。検査の結果、C型肝炎に感染しているとの診断。インターフェロンという薬での治療を受けることになります。

半年にも及ぶ治療で一進一退を繰り返すなか薬の副作用の影響もあり、体調だけではなく気持ちにも変調が現れ落ち込むことも増えていったといいます。

そんな折、心配してお見舞いに訪れた友人が持ってきてくれた雑誌の一ページに目が釘付けになります。

それはとても美しい芭蕉布(ばしょうふ)という布を織る、芭蕉という植物からとられる糸の美しさを特集したページでした。

「なんて美しい糸なんだろう。この糸をこの目で見て、そして触れてみたい」

そう思った永露さんはこの芭蕉布や芭蕉の糸について調べ始めました。

運命が動き出したと言わんばかりに、永露さんがその糸のことを調べはじめると、調べた本などのページは全て南西諸島、特に沖縄につながるものばかりだったといいます。

人生仕切り直し。「美しい糸」を求めたどり着いた西表島

※芭蕉からとってそれぞれの染料で染めた糸。独特の光沢がある。

それからは「美しい糸」に引き寄せられるように人生が変化していきます。

思い切ってそれまでの仕事を辞め、南の島へ移り住む事を決め、知り合いのつてや、相談に訪れた竹富町の織物組合などのアドバイスを得て西表島を訪れました。

「この目で見て、そして触れてみたい」と思った芭蕉の糸に実際触れた永露さんは、「生きる力が湧いてきた」といいます。

※芭蕉からとった糸を福木の染料で染めた糸。

そこから永露さんの島の植物と向き合う日々が始まりました。

「二度と同じものはできない」

※芭蕉の繊維をとる作業をする永露さん

体験工房ゆくいの庭は苧麻や福木、藍などの植物であふれています。

※苧麻を刈り取る永露さん

芭蕉や苧麻の茎の部分を削いで水に浸けたり、または灰汁と共に煮るなどしたあと、ヘラなどで削いで不要な部分を取り除き、繊維の部分だけを取り出します。

※刈り取った茎の部分を水に浸す。左が苧麻で右が芭蕉。芭蕉はこの後灰汁などを入れて煮る必要がある

※へら状のもので不要物を削いで糸をとる
※とれたての糸

※紡ぐ前の糸玉

それを乾燥させ、細い繊維を紡ぎ糸が出来上がります。

糸を様々な色に染めるなどして、織り機で作品を織り上げます。

染め物には、藍の葉や福木の皮やマングローブの皮などをそれぞれの方法で色素を抽出し、媒染(ばいせん)剤と呼ばれるアルミやチタンなどの鉱物を用いて植物に内在する美しい色を引き出し安定させます。

工場や機械でムラなく染め上げられた製品とは違って、自分の手で、そのタイミングにしか生まれない「二度と同じものはできない」ものづくりに没頭し続けています。

西表島の「生命力の強さ」をおみやげに持ち帰って欲しい

かつて体調を崩し西表島を訪れ「生命力の強さ」に触れて生きる力を取り戻した永露さんは、訪れてくれた人に「生命力の強さをおみやげに持ち帰って欲しい」と話します。

特に、織物に使う苧麻は西表島では古くから魔除けになるといわれています。「お守りになりますように」と苧麻を織り込んだ小物には思いを込めて織り上げます。

「生命力の強さ」にあふれた織物や染め物に会いに西表島を訪れてみませんか。永露さんの作品を取り寄せて手元に置いておくだけで、生きる力が湧いてくるかもしれません。

体験工房ゆくい

予約はこちらから
https://iriomote-yukui.rezio.shop/ja-JP

天野崇子

天野崇子

秋田県大仙市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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