「ジョヤサー、ジョヤサッ!」
その大きな掛け声とともに、独特な節の歌が聞こえてくる。中には涙混じりでひねり出すような声も−−。
秋田県大仙市には、その年の大厄の男性(数え年で42歳)が中心となり、自分や家族、それに仲間や地域の厄を払う「大曲の梵天」(おおまがりのぼんてん)と呼ばれる行事がある。
多くの地域に厄払いの行事はあるが、「大曲の梵天」は中学校の学年ごとに行われるのが他の地域と大きく異なる。例えば、今回は昭和55年生まれの学年が一連の行事の実行と準備を担当したら、次回は昭和56年生まれが担当するといったように、同じ人がずっと携わるような行事ではない。これを「2度目の成人式」と形容する人もいる。
筆者はこの度、梵天を担当する学年によって組織された「大曲昭和五十五年会」に密着取材。昨年12月3日に始まり、奉納が行われた今年2月26日まで続いた約3か月の取材の内容を、4回に分けてお伝えする。
梵天に関連する活動は昨年11月頃から始まっていた。
時代劇で家の屋根に登って火事を知らせるために振る纏(まとい)のような形をした「梵天」。それに、行事の中で歌う「梵天歌」で使用する「手板」(ていた)。こうした行事の道具類は全て、その年の学年会が製作する。製作期間は1月1日までと決まっている。
今回は製作に携われる人の数が例年よりも少なかった。新型コロナウイルスの影響である。そもそも、「大曲の梵天」行事そのものの開催も危ぶまれていた。
「新型コロナウイルスが蔓延する中、梵天行事はやめたほうがよいのではないか」「しかし、『厄払い』という行事の目的を考えると行うべきではないか」。議論を重ねた学年会は、無理のない範囲で行事を行うことに決めた。
家族や職場から「大曲の梵天」行事への参加を止められた人もいた。県外に住んでいて、どうしても参加ができないという人もいた。今季の大仙市は積雪量が例年以上で、除雪作業に向かわなければならない人も多くいた。
断腸の思いで参加を見送る人がいた中、製作は進められていった。
しかし、作業には遅れが生じている。
「みんな、参加したくてもできない。本当は参加したいと思っているかもしれないから責められない」と語る人も。
地域外の出身者でも参加できるのが、「大曲の梵天」の特徴の一つだ。「大曲昭和五十五年会」は大曲中学校の卒業者が中心となっているが、他の中学校を卒業した人も参加している。製作期間中にたくさんの会話が生まれ、初めて会った者同士も仲を深めていった。
製作には女性も参加している。梵天の布地の製作や正装に付ける巾着の作成が行われ、女性陣が和やかなムードをつくってくれていた。
(次章に続く)