
福島県北塩原村に位置する桧原湖(ひばらこ)。この湖の西岸にひっそりとたたずむ大山祇(おおやまづみ)神社には、冬の渇水期にのみ湖に沈んだ鳥居が姿を現す神秘的な現象を見ることが出来る。
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会津磐梯山の噴火が生んだ湖と沈んだ宿場町

1888(明治21)年、磐梯山が大規模な水蒸気噴火を起こし、山体崩壊によって大量の土砂が流出。その影響で長瀬川がせき止められ、新たに誕生したのが桧原湖である。このとき、旧米沢街道の宿場町・桧原(ひばら)は湖底に沈み、多くの家屋や神社仏閣も水没した。しかし、当時、北戸山山麓に位置した大山祇神社の社殿は奇跡的に水没を免れ、現在も湖畔に残っている。
冬にのみ姿を現す「幻の参道」

大山祇神社へと続く参道と鳥居は湖底に沈んでいるが、冬の渇水期には水位が下がることで、その一部が氷結した湖面に姿を現す。湖の向こうには磐梯山がそびえ立ち、かつての参道が幻想的な光景を描く。さらに、湖底に眠る二の鳥居や杉並木の根元も現れ、往時の風景を垣間見ることができる。
この鳥居には、無雪期にボートが衝突しないよう浮きが取り付けられている。そのため、夏場は湖上から水没した鳥居を眺めることも可能だ。
歴史が刻まれた水底の神社

この地に鎮座する大山祇神社の起源は定かではないが、中世に穴沢俊家が創建し、大山祇命を祭ったと伝えられる。江戸時代には金や銀の鉱山が栄えたこともあり、地域の守護神として信仰を集めていた。
磐梯山の噴火によって湖に沈んだ桧原宿の面影はほとんど残されていない。しかし、大山祇神社の鳥居が冬の間だけその姿を見せることで、歴史の断片が現代に語り継がれている。
隠れたパワースポットとしての魅力

近年、この神秘的な光景を求めて訪れる人が増えている。アクセスが容易ではないものの、桧原湖を囲む雪景色の中で、悠久の歴史を感じながら佇む鳥居は圧巻である。まさに「隠れた絶景スポット」として、多くの旅人の心をひきつけてやまない。
冬にだけ現れる湖上の鳥居。これは単なる風景ではなく、130年以上の時を超えて、私たちに語りかける歴史の証人なのかもしれない。