100年以上続く伊藤農園の味をもっと多くの人へ。家族と梨園を手伝うまなさんの思い【宮城県利府町】

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「私は長十郎推しなので」

そう話すのは、宮城県利府(りふ)町で100年以上続く伊藤農園の仕事を手伝う、まなさん。現在、約15種類の梨を生産している。

その中でまなさんがおすすめする「長十郎」は、梨の品種の一つ。昔の食感を覚えているお客さんからは、長十郎を勧めると驚かれることもあるという。

そんな方にもおいしさを伝えると、「食べてみようかな」と手に取ってくれることがあるそうだ。

明治時代から梨づくりが続く利府町。まなさんも幼いころから農業を身近に感じながら育った。今は農園の仕事を手伝いながら、直売所やInstagramを通じて梨のおいしさを伝えている。

幼いころから当たり前にそばにあった農園で、まなさんは今、何を伝えたいのか。家族との思い出やお客さんとのつながりをたどりながら、その思いを聞いた。

幼少期から当たり前にあった農業

幼いころから祖父母が農作業をする姿を見て育ったというまなさんに、当時のことを尋ねた。

「私、すごいじじばばっ子だったんで。じいちゃんがトラクターに乗っているのを見るのが好きだったんですよ。一緒に乗ったりしていましたね」

幼稚園に通っていたころ、帰りのバスは家の畑の前に停まった。まなさんはそこで降りると、そのまま畑仕事を手伝うこともあったという。

大好きな祖父がトラクターに乗る姿を眺め、ときには一緒に乗せてもらう。畑で過ごす時間は、まなさんにとって幼いころから日常の一部だった。

梨園の仕事にも、幼いころから親しんでいた。幼稚園のころには、梨を発送するための箱を組み立てていたという。

「一番は身近にあったから、っていう感じです」 

家族が農業を営んでいるからといって、誰もが幼いころから仕事を手伝うわけではない。それでも、まなさんにとっては、家族が畑で働く姿が日常の風景だった。その姿をそばで見て育ったからこそ、農作業を手伝うことも、ごく自然なことだったのかもしれない。

大人になってからも伊藤農園を支える

祖父が亡くなったのはまなさんが中学2年生のころ。100年以上続いてきた梨園を継いだのがまなさんの叔母夫婦だった。現在は、まなさんも幼いころと同じように梨の収穫時期を中心に、農園の仕事を手伝っている。

梨を収穫するのは主に叔父と叔母。まなさんは収穫された梨を選別し、袋や箱に詰め、発送の準備を進める。直売に訪れたお客さんへの対応も、大切な仕事の一つだ。

午前中は販売や箱詰め、午後は発送の準備と、収穫期にはさまざまな作業がある。

幼いころ、叔母と一緒に組み立てていた梨の発送箱。今では1人で作れるようになった箱に梨を詰め、お客さんのもとへ送り出す仕事も担っている。

祖父母のそばで過ごした幼少期から、叔父と叔母を手伝う現在へ。まなさんと農園との関わり方も、少しずつ変わってきた。

「長十郎推し」のまなさんが楽しむ、お客さんとの会話

まなさんに、梨園の仕事のなかで好きな作業を聞いてみた。

「一番は、接客しているときです。たくさんの品種が出るので『どういう味ですか』って聞かれたりして、説明するのも楽しいです」

お客さんと会話をしながら、それぞれの梨の特徴を伝える。なかでも、まなさんが特におすすめしているのが「長十郎」という品種だ。

長十郎は、昔は食感がごつごつ、ざらざらしていたという。その印象を覚えているお客さんからは、「長十郎なの?」と驚かれることもあるそうだ。

けれど、まなさんによると、今の長十郎は食感がパリッとしていて、甘みも強いという。

「『ごつごつしてるよね』って言われても、『今、結構変わってきてますよ』って説明するんです。そうすると、買ってくれたり、『ちょっと食べてみようかな』って言ってくれる方がいるのがうれしいですね」

昔の印象だけで敬遠していた人が、まなさんの説明をきっかけに梨を手に取る。そんなお客さんとのやりとりが、接客の楽しさにつながっているようだ。

まなさんは、農園以外でも農産直売所や飲食店で接客の仕事をしてきたという。人と話すことが好きなのは、幼いころから農園を訪れるお客さんと接してきた経験が関係しているのかもしれない。

「ここで小さいころからいろいろな人たちと関わってきたから、今も接客業をしているのかなって思います」

朝採りの梨のおいしさをもっと多くの人に

長年通ってくれるお客さんとのつながりを大切にする一方で、まなさんには、新しいお客さんにも農園の梨を知ってほしいという思いがある。

そのために始めたのが、伊藤農園のInstagramだ。

まなさんがSNSを通して届けたいと考えているのは、30〜40代を中心とした若い世代。農園の近くには新しい住宅地ができ、子ども連れの家族が訪れることもあるという。

「そういう人たちにもスーパーの梨じゃなくて、やっぱり新鮮な朝採りの直売の梨を食べてほしいです」

まなさんが伝えたいのは、梨を買える場所があるという情報だけではない。直売所だからこそ味わえる、朝に採れるたくさんの品種の梨のおいしさだ。

農園の梨は、贈り物をきっかけに新しいお客さんへ届くこともあるという。

「送られた先の人がおいしいって言ってくれて、わざわざ連絡をくれて、自宅に送ってくださいっていう方も結構いらっしゃいます」

贈り物としてもらった梨を食べた人が、その味を気に入り、今度は自分で注文する。伊藤英樹農園の梨のおいしさが、人から人へと伝わっていくのだ。

直売所では、一人ひとりのお客さんと話しながら梨の魅力を伝えるまなさん。Instagramでは、これから出会うかもしれない人たちに向けて発信する。

伝える相手や方法は違っても、そこにあるのは、農園で育てた梨のおいしさをもっと多くの人に知ってほしいという、まなさんの変わらない思いだろう。

梨だけじゃない。家族との思い出の味も残していきたい

まなさんに、おすすめの梨の食べ方を聞いてみた。

そのまま食べるだけでなく、料理に使うこともあるという。例えば、梨をすりおろしてしょうゆと合わせ、肉を漬け込むときに使う。以前は、梨を使ったタルトを作ったこともあったそうだ。

そして梨の食べ方について話を聞くうちに、話題はまなさんが幼いころから家で食べてきたものへと広がった。しそ巻きやなす漬け、たくあん。どれも、昔ながらの素朴なメニュー。まなさんにとってなじみのある味だ。

「私が結構小さい時から食べてきたもの。ここで作って食べてきたものっていうのも広げたくて」

農園には加工場もあり、以前はしそ巻きを作っていたこともあった。ただ、作る手間や需要の問題もあり、続けていくのは簡単ではないという。

それでも、幼いころから食べてきた味を、これからも残していきたいという思いがある。

「そういうのも将来に残していけたらいいのかなとは思ってるんですけど、なかなか難しいですね」

幼いころから当たり前にあったものを、これからも残していく。その難しさもまた、まなさんが農園と向き合うなかで感じていることの一つなのだと感じた。

大好きな農園で、これからも自分にできることを

梨だけでなく、幼いころから家で食べてきた味も残していきたい。そんな思いを語るまなさんに、伊藤英樹農園への思いを聞いてみた。

「小さいころからずっと身近にある大好きな場所です。ここの梨のおいしさを、もっといろんな人に知ってもらえたらうれしいですね」

100年以上続いてきた伊藤農園。祖父が亡くなったあとも、伊藤英樹梨園として叔父と叔母が梨づくりを続けてきた。

一方、地域では梨づくりをやめる農家も出てきているという。長い歴史を持つ農園であっても、その営みが続いていくことは決して当たり前ではない。

宮城県農業大学校(アグリビジネス学部)へ進み、農業や経営学、加工を学んだまなさん。今は叔父と叔母を手伝いながら、お客さんに梨のおいしさを伝え、若い世代に向けた発信にも取り組んでいる。

梨園は、まなさんにとって「好き」という一言では言い表せないほど、暮らしに溶け込んだ場所なのかもしれない。

幼いころから当たり前にそばにあった祖父母の農園。そこで育つ梨のおいしさも、家族と食べてきた味も、お客さんとのつながりも。

「これからも私ができることならやっていけたらっていう想いではありますね」

素朴で、どこか控えめな言葉。けれど、その奥には、伊藤英樹農園への確かで力強い思いが感じられた。

<伊藤英樹農園情報>

住所:宮城県宮城郡利府町加瀬町64

電話番号:022-356-2233

まなさんが発信するInstagramはこちら

※画像:2026年9月28日 西田ゆき撮影

西田ゆき

西田ゆき

山形県出身、宮城県在住。地域で出会った人たちの想いや活動を記事にして届けます。

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