「我々はキャタリスト(触媒) for ソーシャルチェンジ。社会変革のための触媒になろう、ということをモットーにしています。」
和歌山県で「本州最南端のまち」として有名な、東牟婁郡串本町。坂本直弥さんは、東京とフィリピン、串本町と多拠点生活を送りながら、現在、串本町古座でサテライトオフィス『古座MORI』を運営し、空き家改修プロジェクトを進めている。近年は「ロケットのまち」としても注目を集める串本町だが、坂本さんの目にはどのように映っているのか、実際に街を歩きながら、話を聞いた。
目次
「課題はビジネスチャンス。」社会変革の「触媒」としてフィリピンへ
坂本さんは京都大学を卒業後、東京で公認会計士として働き始める。その2年半後、ビジネスの拠点をフィリピンへと移した。
フィリピンには、衣食住にまつわる数多くの社会課題がある。しかし、日本と比べて制度や法律が未整備だったことや、その分野に明るい人が少ないのも事実だ。
「フィリピンの課題は、ビジネスチャンス。会社が儲かるだけでなく、新しいサービスを生み出すことを目指していました。」
坂本さんは公認会計士という枠を超え、不動産鑑定士やJICAの専門家としても活躍し、法律や会計の知識を現地に提供。社会変革のための「触媒」になることを意識するようになっていった。
2008年、古座川に山を買い、多拠点生活
転機は2008年だった。あるECサイトを見ていたところ、古座の山が売られているのを発見した。それまでに何度も訪れこの地の自然に魅了されていた坂本さんは「これは」、と思い切って購入。書類上は3,000坪だったが、実際は約3ヘクタール(約9,000坪)あったという。それから、フィリピンと東京、古座の多拠点生活が始まった。
古座に通う中で、山へ出るのに古座駅の近くに「基地」を作りたい、と考えていたところ、空き家を紹介された。今から2年前のことだった。自らの拠点も兼ねたサテライトオフィスにしたい、と県に申し出て、空き家改修プロジェクト「サテライトオフィス古座」が始まった。
地元のデザイン会社も噂を聞きつけ、サテライトオフィスの2階の利用をすることになった。
予想外だったのは、その後、古座に民間ロケットの射場計画が持ち上がり、「ロケットのまち」として一躍脚光を浴びるようになったこと。宇宙開発関連など、企業の代表クラスも多く訪れるようになった。
かつて林業・商業・漁業で栄えた古座、「あと5年」で変わらねば
10月の古座川は、時折残暑を思わせる日差しも差し込み、抜けるような青空も広がっていた。海に開けているこの地は、ロケットの射場としても恵まれた環境に思える。
ロケット射場の誘致により地域振興が加速しているようにも見える串本町だが、坂本さんは「あと5年で変わらねば」と危機感を持っている。
「地元で頑張っていた方も、『あと5年』といっている。まだまだ、古座に定住してくれる人が増えない。」
古座は、元々古座川の上流で林業、下流は漁業のまちだ。江戸時代には捕鯨の座も置かれた。そして、その中心部はこの2つの産業をベースとした商業で栄えた。
「今は、常に風が吹いている状況。短期的に来てくれる人をもっと増やしていく関わり方も増やしていきたい。」
地域の「触媒」としての坂本さんの挑戦は、続いていく。