竹だらけ!「真っ暗闇だった」里山に、年間1500人の子どもが通うワケ【神奈川県横浜市】

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企業からの助成金獲得率100%。会員150名。年間1500人の子どもが訪れる里山が、横浜市戸塚区名瀬町にあります。

敷地面積2万坪。東京ドーム約2個分の広大な緑地です。この地で、里山再生に取り組むのが「名瀬谷戸の会(なせやとのかい)」。10年前、ここは人が足を踏み入れられないほど荒廃していました。「真っ暗闇だった」と、当初たった一人で再生を始めた、代表の田中真次さんは振り返ります。

今、同じ場所でたくさんの子どもたちがリヤカーを引き、ふきのとうを摘み、泥だらけになって駆け回っています。2025年には横浜市環境活動賞「市民の部」の大賞を受賞。審査委員長からは「模範的な事例として、横浜市内にどんどん発信していただきたい」と言われたそう。

地域・企業・学校を巻き込み、里山を整備しながら、子どもの里山体験学習の場にする。活発に両方を行っている団体は、全国でもほとんどありません。なぜ名瀬の里山に、子どもたちが集まるのか。理由を伺いました。

教科書の「ふきのとう」を、本物で学ぶ

「地域の人たちを巻き込まなければ、里山再生活動は続かない」田中さんがまず考えたのは、小学生を里山に連れてくること。

そこで、田中さんは保全活動と環境教育を一体化させた事業を打ち出しました。その結果、今では5校の小学校が、里山での体験型授業を行っています。

里山のシンボルツリー「ヤマナシ」が出迎えてくれました

田中さんが活動の軸にしている言葉を教えてくれました。

「本物から学ぶ」

この言葉を実践するため、近隣小学校の全学年の教科書を調べました。授業でどんな自然について学ぶのか。里山で体験できることと、一つひとつ紐づけていったのです。

例えば、2年生の国語には「ふきのとう」という単元があります。子どもたちは教室で、教科書の絵や写真を見ながら学ぶ。でも、本物を見たことはありません。

「ここに来ると、ふきのとうがいっぱいあるんですよ。教室での授業と、里山での校外学習。二つの方向から同じものを学ぶことで、子どもたちは本物を知ることができる」

匂いを嗅ぐ。手で触れる。なぜトゲがあるのか、なぜこんな色をしているのか。五感を使って学ぶ体験は、記憶に残りやすい。楽しいから、自然と覚えます。

多くの小学生が里山を訪れるようになった取り組みが評価され、田中さんのもとには横浜市や神奈川県、さらには林野庁からも「環境教育の実績は国内ナンバーワン」という言葉が届いています。2025年11月には横浜環境活動賞「市民の部」大賞が贈られました。

近隣小学生の活動の様子(田中さん提供)

荒れ果てた里山を託された日

かつては土地所有者が、2万坪もある里山を守り続けていました。しかし、高齢になり管理できなくなっていきます。苦渋の決断で、そのうちの1万6000坪を横浜市に売却しました。

売却後1〜2年、里山はみるみるうちに荒廃し始めます。かつて美しかった里山は、人が足を踏み入れられないほど荒れ果ててしまいました。

「なんとか昔の里山に戻してほしい。そして、子どもたちや、ファミリーが自由に来られる場所にしてほしい」

地主さんから呼び出され、森林インストラクターだった田中さんは二つの願いを託されたそうです。依頼を受け、現地を見に行き、言葉を失いました。

「本当にひどかった。竹林が管理されずに密集していて、地面に太陽の光も届かない。ボロボロの古い竹が腐り、倒れていました。里山は真っ暗闇でしたね」

しかし、一人でどうにかできる広さではありません。そこで、森林インストラクターの資格を持つ仲間たちに声をかけました。

2015年12月、まずは私有地の竹林管理を目的とした里山再生を開始。2016年4月に名瀬谷戸の会を設立しました。その後、2016年7月に横浜市から森づくり団体として承認され里山全体の再生プロジェクトをスタートさせたそうです。

現在の里山。木漏れ日が差し込み、とても気持ちの良い空間でした

竹を伐(き)り、草を刈り、少しずつ森を整えました。4~5年かけて切った竹は、毎年1000本前後。里山は少しずつ、木漏れ日の差し込む本来の姿を取り戻していきました。しかし、森林インストラクターだけで続けていくことは無理だと感じ、地域の人や子どもたちを巻き込むことを思いつきます。これが、近隣小学校との環境教育連携の始まりでした。

里山では倉庫も、机も、すべて手作り。産業廃棄物からもらってきた材料や、里山で切った竹を使っています。

「名瀬谷戸の会」の物置小屋は、田中さんたちの手作り。風景にマッチしていました
木を切って薪も自分たちで作っています

「スチール製の小屋じゃ、里山の原風景ではないんですよ。ここにあるものを使って作る。地産地消、それが一番しっくりくる」

里山の雰囲気を壊さないよう買わずに自分たちで作る。この姿勢に田中さんのこだわりが感じられました。

子どもたちからの贈り物

里山環境教育では、子どもたちと一緒に自然、環境、生きもののことを学びます。田中さんが一番うれしいのは、子どもたちからの反応だと言います。

「年に何回も来るうちに、子どもたちのほうからお礼として『里山の処分ゴミクリーンアップ作戦をやりたい』と言ってきてくれる。素晴らしいことですよね」

里山でリヤカーを引くこと自体が、子どもたちにとっては大冒険です。最近はリヤカーを知らない子がほとんど。自分で引っ張って、里山のゴミである草や枝を運ぶだけで大はしゃぎ。遊びと作業が一体になって、子どもたちは夢中になるそうです。

子どもたちに大人気の大きなリヤカー

「掃除をしなさいと言われるのとは違うんです。やらされるのではなく、自分からやりたいと思う。子どもの方から提案してくれるというのがいいですよね」

今、子どもたちは自然と触れ合う機会が少ない。だからこそ、里山で自由に何でもできることが大切だと田中さんは考えています。走り回っても怒られない。泥だらけになってもいい。木に登ってもいい。そういう禁止事項のない自由な場所が、今の子どもには必要だと語ります。

そんな子どもたちから、田中さんは「しんちゃん」と呼ばれています。

「先生って呼ばれると、壁ができちゃうでしょ。それが嫌なんですよ。親しみをもってもらいたくてニックネームで呼んでもらっています」

東戸塚駅などで「しんちゃーん!」と声をかけられることもあるそうです。

「声をかけてくれるのはうれしいですよ。それに、1年生から6年生まで、たくさんの感謝の手紙をもらいますが、それがうれしい。こういうご褒美が里山環境教育活動の原動力になっています」

「俺たちは5,000円もいらないよ」

里山保全を続けていくには、お金がかかります。しかし、横浜市から活動資金が出るわけではありません。そこで、田中さんが考えたのは、企業からの助成金でした。会員の年会費は1人2,000円。ファミリー会員は人数を問わず3,000円と良心的。会費は最小限に抑えたかったそうです。

環境活動に対する助成金を出している企業に、申請書を出しました。実績がとても大切なので、子どもたちの活動人数などを細かく記録して提出。すると、厳しい審査を通過して助成金がもらえました。その獲得率は、なんと100%だといいます。

最近では、企業のファミリーイベントの依頼もあるそう。

「企業や、大学や、行政、地域の人からイベントや講演の依頼がくるようにもなりました。それは、子どもたちとの活動実績を評価してくれているから。だから僕は、できるだけ断らないようにしているんです」

こうした連携を、「5wins(ファイブウィンズ)」と呼んでいるそう。

「企業はSDGsの目標達成として、ホームページや広報誌で環境貢献のアピールができるのでメリットがある。我々も助成金をもらえる。近隣小学校も里山で環境教育ができる。地域の住民もやりがいを得られる。行政も里山が整備されて助かっている。5winsなんです」

そして、もう一つ。田中さんが大切にしているのが「ささやかな有償ボランティア」という考え方。

一般的にボランティアは無償です。しかし田中さんは、会員に交通費程度の日当を支払っています。原資は、企業からの助成金です。

リタイアした人たちが、少ない年金を削って活動に来てくれている。それは心苦しいと感じていたそう。始めは交通費だけではなく、日当として5,000円を支払おうと考えていました。ところが、会員からはこんな声が返ってきました。

「俺たちは5,000円もいらないよ。そんなにもらったら責任だけが重くなる。交通費程度で十分」

みんな、お金のために来ているわけではない。定年後のセカンドライフで、生きがいとやりがいを求めて来ている。だからこそ、プレッシャーなく、仲間と楽しく活動できることが重要なのです。

竹林伐採の様子(田中さん提供)

「誰一人、日当が少ないなんて文句を言う人はいませんよ。みなさん、環境保全活動の意味をよく理解してくれて、同じ思いで動いてくれていますよ」

田中さんは誇らしげに笑いました。

メダカ池。横浜固有のミナミメダカの一種である名瀬メダカをはじめ、ヤゴ、ドジョウやゲンゴロウなどの水生生物が暮らしています

いつか子どもを連れて戻ってきてほしい

学校だけではなく、地域の人に楽しんでもらえる工夫もしています。夏は、里山の竹を切って流しそうめんをしたり、秋にはドラム缶で焚き火をして焼き芋をしたり。バーベキューや豚汁パーティーも開催。季節ごとに、ファミリーで楽しめるイベントが行われています。

流しそうめんを楽しみに待つ子どもたちの様子(田中さん提供)

年間1500〜2000人の子どもたちが訪れる里山。活動の中で、田中さんには忘れられない出来事があります。

小学4年生の時から通い続けていた一人の女の子がいました。小学生のうちは積極的に参加していましたが、中学に上がると部活が忙しくなり、足が遠のいてしまいました。

ところがある日、里山での活動を再開したいと連絡があったのです。高校生になり戻って来てくれた彼女。高2のときにこんな相談をされました。

「『文部科学省の支援でカナダの里山について勉強できるそうなので、挑戦してみたい』と話してくれました。そういう子が出てくれることが、本当にうれしかったですね」

それを聞いたときのことを、うれしそうに振り返ります。これからも、彼女に続く子どもが出てきてくれること。それが一番の願いだと話してくれました。

一方で、田中さんには気がかりなこともあります。

「僕の一番の優先事項は、後継者をつくること。例えば企業へ提出する助成金の申請書を同じレベルで書ける人がまだいない。僕だって、元気でいられるのはあと数年ですよ」

数年前、大病を患った田中さん。「あと数年」。その言葉には、切実な思いが込められていました。それでも、里山で育った子どもたちが、いつか子どもを連れて戻ってきてくれるかもしれない。そう信じて、田中さんは今日も活動を続けています。

取材の最中、何度も里山を眺める田中さんが印象的でした。その横顔は、まるでわが子を見つめるように優しい。長い年月をかけて育ててきた里山への愛情が、言葉以上に伝わってきました。

※田中さん提供写真以外のものは全て2026年4月9日筆者撮影

名瀬谷戸の会について

名瀬谷戸の会は、里山の保護・保全・育成・管理を目的とした団体です。未就学児からシニア世代まで誰でも参加できます。定例作業日は月に4回。参加は自由です。

里山環境教育で興味を持った子どもをきっかけに、ファミリーで入会するケースが多いそう。ママ友の口コミで広がることもあり、会員は増え続けています。

森田かえ

森田かえ

愛知県出身。夫の転勤で横浜に住んで7年目。地方から見ると大都会な横浜でリスを発見し驚きました!聞いてみないと分からない情報をたくさん見つけていきたいです。環境問題にも興味があるので、そういう発信もしていきたいと取材ライターとして活動中。

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