ぼくたちは今、自分の感情にどれだけ自覚的だろうか。
効率化がもてはやされ、AIが瞬時に「正解」を弾き出す時代。世間が求める役割や、スマートな成功法則に自分を押し込めるうち、いつの間にか「これが好きだ」「ここが嫌いだ」という心の声が聞き取りづらくなってはいないか。

埼玉県所沢市で「アクウカンゲームズ」を主宰する常田卓磨(つねだ・たくま)さん。Webコンサルティング会社の代表としてデジタルの最前線に立つ彼が、あえて木や紙の手触りがある「アナログなボードゲーム」をつくっていると聞いた時、ぼくは強烈な違和感と好奇心を抱いた。
なぜ、デジタルのプロがアナログな遊び場をつくるのか? その裏には、効率至上主義の現代に対する反逆と、彼自身が心から「面白がって」仕掛ける、ある秘密の空間があった。
目次
デジタルの最前線で消えた「楽しさ」と、初期衝動の回復
常田さんの活動は、ボードゲーム制作にとどまらない。クリエイターが集うシェアアトリエの運営や、フリースクールの立ち上げなど多岐にわたる。しかし、初めから順風満帆だったわけではない。
かつてWebディレクターとして猛烈に働き、仕事の権限や収入が増えていく中で、彼はある日突然、見えない壁に激突した。
「仕事が急につまらなくなってしまったんです。振り返ると、自分は出世や権限が増えることを楽しんでいただけで、仕事そのものを楽しんでいなかった。自分が何が好きか、考える時間を全く取ってこなかったことに気づきました」と、常田さんは語る。
他者の評価や外側の「正解」ばかりを追い求め、自分の感情を置き去りにした結果訪れた虚無感。そこから彼を救ったのは、ボランティアでプログラミングを教え始めた子どもたちの姿だった。
「好きなものをつくってごらん」と場を渡すと、子どもたちはコードを書くこと以上に、物語づくりやビジュアルづくりに没頭し始めた。
そこに大人の評価はない。他の人との比較もない。ただ純粋な「やりたい!」というエネルギーだけが渦巻く様子に、常田さんは強烈な面白さと可能性を見い出したのだ。
ルールが崩壊した時、人は勝手に熱狂し始める
「AIがどれだけ賢くなっても、『私がこれが好きだからやっているんです』という人間の熱量だけは代替できません。どんなにクオリティーが高くても、背景にある思いがなければ人は感動しないんです」
常田さんが開発したプログラミング的思考を養う対戦ゲーム『ニャイスコード』には、あえて「ルールの余白」が残されている。プレイヤー自身がルールを書き換えることで、時に矛盾が生じ、ゲームそのものが崩壊してしまうこともある。
しかし、ここからが常田さんが最も「ワクワクする」瞬間だ。
不具合が起きても、参加者たちは誰の指示を受けるでもなく、自分たちの熱量で勝手に試行錯誤を始め、笑い合いながら新しい遊びをつくり出していく。
「自分たちでルールを追加してゲームが成立しなくなった時、どうやったら面白くなるかを諦めずに考えてもらう。そういうのが発生するのを見るのが、制作者冥利(みょうり)に尽きるというか、『しめしめ』と面白がりながら見ていますね」
評価も、戦略的な利益もない。ただそこに他者の目が介入しない「余白」があるだけで、人間は自走し始めるのだ。
この秋、「共に倒す」新たな体験のデザインへ
そんな常田さんが今、新たな仕掛けを世に送り出そうとしている。今年10月にリリース予定の完全新作ボードゲーム『龍が朽ちる時(りゅうがくちるとき)』だ。


これまでの対戦型ではなく、プレイヤー同士が情報を共有し合い、協力してクリアを目指すゲームだという。相手を打ち負かすのではなく、「共に協力する」体験のデザイン。それは、予定調和を自ら壊し、常に本質を探求し続ける常田さんらしい、現代社会への新たなアプローチと言えるだろう。
あなたの「心が動く瞬間」を取り戻すゲーム
彼の話を聞きながら、ぼくは深くうなずいていた。
かつてぼく自身も、社会が求める「マーケティングの正解」や「効率」に自分を合わせるあまり、自分の「好き」に対する感度が、すっかり鈍り切っていた時期があったからだ。だからこそ、他者の評価を気にせず、ただ自分の「好き」に没頭できる空間の尊さが痛いほどよくわかる。
しかし、誰もが最初から自分の「好き」を爆発させられるわけではない。
「明日から日常に遊びを取り戻すには、どうすればいいでしょうか?」
ぼくの最後の問いに対し、常田さんはこう答えた。
「いきなり大きなことをしなくていいんです。Excelの表がきれいに組めたとか、今日のコーヒーが上手く淹れられたとか、本当に小さなことでいい。自分が『心地いい』『楽しい』と感じる瞬間を、細かく認知することから始めてみてください」
常田さんが面白がってつくっているのは、爆発的なエネルギーを生み出す前の、そのずっと手前にある「ただ自分の『好き』に気づける安全な土壌」だったのだ。
誰もが、自分の人生の手触りをつくり出す「クリエイター(表現者)」になれる。そのためには、まず自分自身の小さな感情の揺れを拾い上げることだ。
予定調和な毎日に息苦しさを感じ、感度が鈍っているなら、今日から「自分の心が動く瞬間を小さく感じるゲーム」を始めてみてほしい。
誰の評価もいらない。ただ、あなた自身の「好き」という静かな声に耳を澄ませるだけで、世界は確実に、少しずつ彩りを取り戻していくはずだ。
※写真は全て常田さんからの提供
情報
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URL:https://aqoocan-games.com





