フランスにある「小さなベネチア」は、まるで絵本の世界【フランス・コルマール】

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フランス北東部、アルザス地方の街コルマールを歩いていると、思わず足を止めてしまう場所がある。

運河沿いに並ぶ木組みの家々。窓辺を彩る色とりどりの花。そして水面に映り込むカラフルな街並み。その風景はまるで絵本の中から飛び出してきたようだ。

このエリアは「プティット・ブニーズ(Petite Venise)」、日本語では「小さなベネチア」と呼ばれている。コルマールを代表する観光スポットであり、多くの旅行者がこの風景を求めて訪れる。

しかし、この場所の魅力は見た目の美しさだけではない。その背景には、コルマールという街が歩んできた歴史が隠されているのである。

なぜ「小さなベネチア」と呼ばれるのか

名前の由来は、この地域を流れるローシュ川の支流と運河にある。

運河沿いには中世から続く家々が建ち並び、かつては船を利用して農産物やワインを運搬していた。水路は単なる景観ではなく、人々の生活を支える重要な交通路だったのである。

イタリアのベネチアのように街と水路が密接に結びついていることから、「小さなベネチア」と呼ばれるようになった。

現在では観光用の小舟がゆっくりと運河を行き交い、訪れる人々に街の風景を楽しませている。しかしその水路は、もともとこの街の暮らしそのものを支えてきた存在だった。

ワイン商人たちが暮らした地区

プティット・ブニーズ周辺は、かつて漁師や船乗り、ワイン商人たちが暮らしていた地区として知られている。

アルザス地方はフランス有数のワイン産地であり、現在でも美しいワイン街道が続いている。周辺の村々で造られたワインは、この運河を利用して各地へ運ばれていた。

運河沿いの家々が細長く建てられているのも、その歴史と無関係ではない。限られた土地を有効活用しながら、水運に便利な構造が求められた結果である。

今ではレストランやホテル、お土産店として利用されている建物も多いが、その姿は何百年も前の商人たちの暮らしを今に伝えている。

戦争を乗り越えて残った風景

コルマールの魅力は、この景観が「本物」であることにある。

アルザス地方は歴史的にフランスとドイツの間で何度も領有権が変わった地域であり、2度の世界大戦でも大きな影響を受けた。

それにもかかわらず、コルマール旧市街は大規模な破壊を免れた。中世から近世にかけて建てられた木組み建築の多くが現存しており、現在も人々の生活の中で使われ続けている。

観光のために再現された街並みではなく、何世代にもわたって守られてきた歴史そのものが、この風景の価値なのである。

そしてプティット・ブニーズが最も美しい季節は、5月から7月にかけてであると聞いた。

この時期になると、運河沿いの家々や橋の欄干、窓辺のプランターに色とりどりの花が咲き誇る。アルザス地方では古くから住宅を花で飾る文化があり、夏になると街全体が巨大なフラワーガーデンのような姿に変わる。

特に6月から7月は、運河の水面に映る木組みの家々と花々のコントラストが美しく、多くの写真家や旅行者が訪れる季節でもある。

筆者が訪れたのは初夏であったが、橋の上から眺める景色はまさに絵本の世界そのものだった。カラフルな建物だけでも十分に美しかったが、「ここに花が加わることで、この街は唯一無二の風景になるんだ!」と住民が教えてくれた。

おとぎ話のようで、本物の街

コルマールは『美女と野獣』や『ハウルの動く城』の世界観を思わせる街として、度々SNSで紹介される。

確かに、プティット・ブニーズを歩いていると、どこか映画や絵本の世界に迷い込んだような気持ちになる。

しかし、この場所が人を引きつける理由は、単なる可愛らしさではない。

そこには運河を利用して暮らした人々の歴史があり、戦争を乗り越えて守られてきた建物があり、フランスとドイツの文化が交差する独自の物語がある。

「小さなベネチア」と呼ばれるこの場所は、観光名所であると同時に、アルザスという地域の歴史そのものを映し出す風景なのである。

※写真は全て筆者が撮影(2026.05.25)

阿部宣行

阿部宣行

インドネシアはジャカルタ在住。長年お世話になった東北や旅して回った国々の記事を執筆しています。
ローカリティ受賞歴:
ハツレポグランプリ2025 副編集長・丸山賞
写真受賞歴:
東京カメラ部×FUJIFILM10選 - Colors Like Film -フォトコンテスト2025
Fun,Fan,Find青葉 Fコン2025
仙台朝市銀座UNフォトコン2025
やっと連仙台 阿波踊りフォトコン2024
ウズベキスタンフォトコン2024

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