
フランス北東部、アルザス地方にあるコルマールを歩いていると、まず目に飛び込んでくるのは色である。
赤、黄色、緑、青、クリーム色。木組みの家々が運河沿いや石畳の路地に並び、まるで絵本の中に迷い込んだような景色が広がっている。コルマールは「アルザスらしさが凝縮された街」とも紹介される場所で、花で飾られた家々や運河、橋のある風景がこの街の大きな魅力となっている。
しかし、このカラフルな街並みは、単に「かわいい」だけのものではない。アルザスの木組み建築には、かつて家の色が住人の職業を示していたという説がある。

目次
色は職業を示していたのか
観光ガイドなどでよく語られるのは、家の外壁の色によって職業がわかったという話である。
例えば、黄色はパン職人や菓子職人、青は木工職人、赤は鍛冶屋など鉄に関わる職人、緑は革や布に関わる職業、ベージュやクリーム色は石工や左官など建築関係の職業を示したとされる。
もちろん、現在残るすべての家が当時の規則をそのまま保っているわけではない。時代ごとの塗り替えや修復もあり、色の意味についても地域や資料によって説明に差がある。そのため「この色だから必ずこの職業だった」と断定するよりも、「かつて色が職業を示していたと伝えられている」と理解するのが正確である。
それでも、この説を知ってから街を歩くと、風景の見え方は大きく変わる。美しい外壁の色が、単なる装飾ではなく、人々の暮らしや仕事の記憶をまとっているように感じられるのである。

ハートは「結婚前」のマーク!?
カラフルな街並みの中で目を凝らすと、窓や雨戸にハートの飾りが付いた家を見かけることがある。
地元では、こうしたハートは「この家に結婚前の女性が住んでいる」という目印だったという言い伝えが残っている。かつては求婚を望む男性たちが家の前を行き来し、娘の家族に結婚を申し込んだとも伝えられている。
真偽は定かではないものの、こうした物語が今も語り継がれていること自体が、コルマールの街並みにどこか童話のような雰囲気を与えているのかもしれない。

木組みの家が語るアルザスらしさ
コルマールの街並みを特徴づけているのは、色だけではない。建物そのものも、アルザス地方独特の歴史を伝えている。
この地域に多く残るのは、木材の骨組みを外から見せる「木組みの家」である。フランスでありながら、どこかドイツの村を思わせる景観が広がっているのは、アルザスが長い歴史の中でフランスとドイツの間を行き来してきた土地だからである。コルマールの建築には、そうしたフランス文化とドイツ文化の重なりが色濃く表れている。
旧市街を歩いていると、傾いた壁や細い路地、木の梁がそのまま残る家々が次々に現れる。観光地として整えられてはいるが、そこには作り物ではない時間の厚みがある。

あの「自由の女神像」をつくったのもコルマールの職人だった
コルマールは、優れた職人たちを数多く輩出した街でもある。その代表的人物が、彫刻家のフレデリク・オーギュスト・バルトルディである。
彼はコルマールで生まれ、後にニューヨーク港に建つ「自由の女神像」の設計者として世界的に知られるようになった。
現在も街にはバルトルディの生家を利用した博物館が残されており、コルマールの重要な観光名所の一つとなっている。
色鮮やかな木組みの家々が並ぶこの街は、単に美しい景観を残しているだけではない。長い歴史の中で培われた職人文化が息づき、世界を代表する芸術家を育んだ土地でもあるのである。

色が残した暮らしの記憶
コルマールの面白さは、景色の美しさと歴史の読み解きが同時に楽しめる点にある。
何気なく見ていた黄色い家は、かつてパンや菓子の香りが漂う場所だったのかもしれない。赤い家の奥では、鉄を打つ音が響いていたのかもしれない。青い家には、木を削る職人の手仕事があったのかもしれない。
コルマールの街並みが多くの人を惹きつけるのは、色鮮やかだからだけではない。その色の奥に、職人たちの生活、国境地域としての歴史、そしてアルザス独自の文化が静かに息づいているからである。

※写真はすべて筆者が撮影(2026.05.25)





