バンザイ!秋田県民 しょっぱい漬物に砂糖をまぶせ!

秋田県の中でも雪深いとされる横手市。市の東部にある増田町狙半内(さるはんない)は、特に雪深い。そこには、笑いと驚き、そして秋田の食文化と雪国の知恵がありました。

(写真)婆っぱのもとに続く道=2020年12月

2019年2月、外にいると自然と鼻先や耳が痛くなる寒い日だった。そんなある日、仕事があり、同僚とともに、市の中心部から山あいに向かって車を走らせた。30分もすると、小さな車の両脇には2メートルを超える雪壁がそそり立ち、道路はさながら雪の回廊となった。出発して40分ほどして、目的地のお宅に到着した。

そこは横手市増田町の狙半内地区。

秋田県の内陸南部の東側に位置し、6集落、約150世帯からなる。奥羽山脈のふもとに位置した山深いところだ。すっかり雪の壁に囲まれたお宅に着くと、約束どおり主人が在宅していた。玄関であいさつをすると、すぐに居間へ通され、自分と同僚は温かいコタツに足を入らせてもらいながら、主人とじっくり仕事の話をした。

居間に最初から一緒にいた婆っぱ(ばあさん)が、おもむろに腰をあげると「お、お茶っこ出すなぁ(お茶を出すよ)」と言った。

えっ、このタイミングか?! 家に着いてから、もう2時間もたつんですけどぉ~(笑)

2時間、同じ居間にいて、ただ笑顔で見守っていた婆っぱは、主人の母。高齢で耳が遠いのだという。確かに、我々の会話がほぼ聞こえていないような気がしていた。昭和2年生まれの92歳(当時)なんだと。それじゃあ、まぁ、しょうがないよね。

お茶を出そうとした婆っぱが、「ありゃ・・・、何だが葉っぱ出だ」と声を出し、少し驚いている。「だって、網入ってねぇもの~」と、主人はちょっとあきれ気味に声を上げる。ありゃりゃ、見ると茶碗に茶葉がごっそり入ってる。主人が急須に茶こし用の網を入れ、今度はちゃんとお茶が注がれた。

あーあ・・・、やれやれ。でも、しょうがないか、90歳を超える年寄りなんだもんな。

2時間ぶっ続けの話もひと休み。出されたお茶で、ちょっとゆっくり。台所に立った婆っぱだが、お茶うけに、ささぎ豆の煮豆を出してくれた。少しとろみを見せる黒い汁と、柔らかそうな煮豆をお茶とともにいただく。

おいしい。とても美味しい。自分と同僚は、丸くなった互いの目を見せあった。主張しない上品な甘味。本当にほんのわずかな塩味の影を感じる。とても控えめだが、けっして薄味ではない。ぎりぎりの塩梅(あんばい)で、甘くて上品でおいしいのだ。これまで食べた煮豆の中で、間違いなく一番にうまい。
婆っぱが次にお茶うけに出したのは、昆布の佃煮。これまたうまい。甘じょっぱさが絶妙だ。控えめながらグッとくる味で、昆布のうまみをしっかり感じさせてくれる。これまた本当においしい。

でも、これはグルメ記事ではありません! 次に出てきたお茶うけに、衝撃ドーン! 瞳孔がきっと2ミリ広がった。本当にビックリした。それがこれ。

(写真)婆っぱの漬物

しっかりしっかり塩に漬け込まれ、元の大きさが想像できないほど、ギューッと縮んだナスのお姿。コイツはぜったい塩辛い。いや、しょっぱすぎるに決まってる。しかも、なんなの、ナスを覆うあの白い粒! しょっぱすぎるヤツにさらに塩? おいおい、婆っぱ、絶品料理のあとにまさかの罰ゲームか? 

1秒とかからず、そんな思いが駆けめぐる。「実家がらもらったナスだ」「そのままだば、しょっぺがら、砂糖まぶしてら(そのままだと、塩辛いから、砂糖をまぶしている)」と、耳は遠いが、しっかりした声でしゃべる婆っぱ。

「えっ、砂糖ですか?」婆っぱに聞こえるように、大声を出す。「んだ。そのままだば、一つでまま一杯食べれるくれ、しょっぺおな(そう。そのまま食べると、一切れで茶碗一杯のご飯を食べられるくらい塩辛いんだよなぁ)」と、主人が答えてくれた。笑顔の婆っぱに返事はない(笑)

確かに白い粒の粗さ、大きさからして、塩じゃない。でも、ちょっと待て! 塩辛いから砂糖を足すって、それ、やっちゃいけないパターンでしょ。

俺の右横には「あはっ、アハハ・・・」と笑いをこぼし、明らかに目が泳いでいる同僚。俺も絶賛動揺中。

でもここは、食べなきゃ失礼な雰囲気だよなぁ。一切れだけでもいただかないと。めっちゃショッパイ漬物に砂糖をあんだけまぶして、どんな味なのよ? 

覚悟を決めて、でも、なるべく小っちゃいヤツを選ぶ。フォークが1本しかないので、そのまま口にできないから、そいつをいったん、皿代わりにした左手に乗せる。

笑顔の婆っぱの視線の先は、この俺だ。やっぱり食うしかないのかぁ~?! ええーい、マズかったらお茶で流し込んでやる! そう心に決めて、そいつを口に放り込んで噛みしめた。

うまい・・・んっ、あれっ?・・・うまい。俺より少し先に口にしていた右横の人もまた、目を丸くしてそう言っている。そんなはずないけど、うまい。造作なくまぶしたようにしか見えない砂糖。それが絶妙。うまいのだ。他のお茶うけといい、スゴイ料理の腕前だ。しょっぱすぎる漬物に無造作にまぶされた砂糖。なのに、おいしい。なんてこった!!

とにかく、婆っぱ、あんたはスゴイぜ。話を終えて、主人と婆っぱの門送りを受けながら、2メートルを超える雪壁に囲まれた山奥の家をあとにした。しょっぱいのが好き。それでいて、甘いものも好む秋田県民。

特に、横手市がある県の内陸南部が顕著だと言われている。

赤飯の味は甘い。茶碗蒸しも甘いし、卵焼きも甘い。グレープフルーツはもちろん、トマトにも、納豆にも好んで砂糖をかける。それでいて、漬物も、味噌汁も、しょっぱい。修学旅行で京都に行ったとき、味噌汁が「味噌色のお湯」と感じたほどだ。

母は料理に上白糖をほとんど使わないが、母いわく、それはとても珍しく、普通の家庭はたくさん使うらしい。だから、スーパーの砂糖の安売りは好評だというのだ。また、同じ内陸南部の羽後町にある母の実家では、のし紙で包んだ砂糖を、お供え物として仏壇に供えることは珍しくないんだと。へぇー、そんなの初めて知ったけど、そう言われると、なんだかそんなお供え物もあったような気がする。

(写真)砂糖をかけた、おはぎ(同僚の話から再現)

後から聞いたところ、同行した同僚の祖父(大正11年生まれで、93歳で他界)は、砂糖好きで、おはぎにも、ご飯にもかけて食べていたそうな。これまたビックリだが、まぁ、とにかく、秋田の内陸南部では砂糖好きが多いのだ。それにしても、「砂糖をまぶした、やたらしょっぱいナスの漬物」とは・・・。古希を過ぎた料理上手の母に、家で写真を見せた。やっぱり驚いていたが「山奥の婆さんだべ。生活の知恵だべ」とすぐに言葉を続けた。

今と違って、昔は食べ物が非常に貴重だった。そのうえ、今とは違い、徒歩か馬くらいしか移動手段がない時代、雪深く冬が長い山奥では、なおのこと。生活すべてに様々な工夫や知恵が必要だったろう。90歳を超えるその婆っぱには、そのくらしの知恵が生きていたから、しょっぱすぎる漬物さえも、見事なお茶うけとして出せたのだろう。そう母が言うのだ。

期せずして、秋田の食文化や昔からの暮らしについて、しみじみ思いをはせることになった。金を積んでも味わえない、本当に貴重な時間だったぜ。

「ありがとよ、婆っぱ!」。あっ、耳が遠くて聞こえないか? でも、気になって近くまでは来てみたよ。

大沼吹雪

第1期ハツレポーター / 秋田県横手市

1974年生まれの1児の父。「これ、いいな」「伝えたいな」と思ったことをのんびりとお伝えできれば。「ある秋田の文化」を時々探します。「雪下ろし」の道具もつくってます。(https://www.facebook.com/snowrr/)写真は小学6年生の私。地域の行事「虫追いまつり」です。