「この町のエンジンはあたたかさにある」スーパーもコンビニもない町の町会が企画した、初めてのマルシェ【東京都府中市】

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2026年7月11日(土)、東京都府中市多磨町にて、第1回多磨町マルシェが開催されました。多磨町会が主催し、会場となった多磨町公会堂とその前の多磨町公園には多くの人が集まりました。

なぜ今、開催を決めたのか。その思いも含めて、多磨町会長の布川眞(ぬのかわ・まこと)さんにお話を伺いました。

会場となった多磨町公会堂は三谷神社の敷地内にあります。拝殿の奥には多磨町公園があり、
子どもたちのコミュニティの場です

食べて、買って、楽しむ1日

会場は多磨町公会堂と、その隣にある多磨町公園です。公園にはキッチンカーや露店がずらりと並び、ハンバーガーや焼き鳥、かき氷、チュロスなど、さまざまな食べ物がそろいました。また、割りばし鉄砲の体験コーナーやアウトドア用品の販売ブース、カブトムシやクワガタの配布もあり、子どもから大人まで夢中になっていました。

この日は東京でもシーズン初の猛暑日が観測されました。焼きそばや焼き鳥を食べた後に、
かき氷やラムネでクールダウンしている人も多かったです

一方、公会堂では地元農家による夏野菜の販売会をはじめ、わかめの量り売りやマルシェ特製のだんご、多磨駅前の居酒屋オリジナル「磨Tシャツ」(多磨町は、多「摩」ではなく多「磨」と書きます)などの販売も行われました。さらに、キーホルダー作りのワークショップやステージイベントなど、1日を通してたっぷり楽しめる内容となっていました。

野菜の販売終了後は、ステージでリハーサルをする子どもたちを応援しながら、ワークショップやグッズ、
甘味の販売などで盛り上がりました

会場を包むあたたかい空気

当日は9時を少し過ぎたころから、すでに行列ができていました。列に人が加わるたび、運営スタッフも並んでいる人も分け隔てなく「おはようございます」と声をかけ合い、穏やかな声が敷地内に響きます。

住宅街の中にある公会堂では、開場前から待つ姿が。みなさんが声を抑えめにおしゃべりをしていました

マルシェが始まった後も、会場のあちこちで会話が弾みます。ご婦人たちは新鮮な野菜を両手いっぱいに抱え、おすすめの野菜料理について話しながら、楽しそうに会計を待っています。その様子を少し離れた場所から「よくしゃべるなあ」とつぶやきながら待つお父さんたちもいます。その表情は、どこか楽しげです。

飲み物を販売しているスタッフさんから「久しぶり、大きくなったね!」と声をかけられ、少し照れながらラムネを買う男の子の姿もあります。また、駐輪場の前で話しかけられ、10分以上自転車を支えたまま話し込むお母さんや、玉のような汗をかきながら鬼ごっこをしている子どもたちも見かけました。

このマルシェの会場は、まるで地域の集会所のようでした。

卵を切らせば隣町まで買いに行かなければならない町の、仕掛け人

多磨町には、スーパーマーケットもコンビニエンスストアもありません。

町域の半分以上を占める多磨霊園や、広大な都立武蔵野公園があり、自然豊かな町です。住宅地は東側のおよそ4分の1ほどで、2026年7月1日現在、住民は3652人です。もともと交通の便があまり良くなく、2026年1月に町会が行ったアンケートでも、日常の買い物環境に対する不満が多く寄せられました。

「アンケート結果を見て、農家さんの野菜販売をやってみようと思ったんですよね」と語るのは、多磨町会長の布川さんです。

多磨町会長の布川眞さん。初めてのイベントで息をつく間もない中、これまでの多磨町について丁寧に教えてくださいました

「みんなのため」ではなく「自分も困っているから」

30年ほど前、子育ての環境を探していた布川さんは、なじみがあった多磨霊園のそばに引っ越してきました。

「それまでも『便利ではなさそうな地域』とは思っていましたが、自分の子どもが小学校に入学する直前、ようやく自宅との距離感や不便さを改めて実感しました」と当時を振り返ります。

実際の生活や子育ての中で感じた不便さが、布川さんを動かしました。

例えば、「てらこや」の発足が挙げられます。布川さんが子育てを卒業した後も、多磨町に住む子どもたちは小学校が遠く、防犯上の問題もありました。子ども会(現在は解散)の会長を務めたことがある布川さんは歴代の役員を中心に意見を集め、2022年5月、「放課後に家の近くで子どもを見守る場」として、多磨町公会堂で町会主催の「てらこや」を始めました。現在は町会の事業から独立した任意団体として、週に1回ほどのペースで東京外国語大学の学生がボランティアで子どもたちの宿題などを見ています。

多磨町マルシェ開催まで

布川さんは2025年4月、多磨町会長に就任することになりました。その際、まず現状をしっかり理解するため、町会に加入している世帯を中心に意見を集めることにしました。「多磨町会 改善のためのアンケート」の実施です。その結果、買い物の負担が大きいと感じている住民が多いことが分かりました。

ふと、多磨町やその周りで、農家が庭先で野菜販売する光景をよく見かけていた布川さんの頭に、ある考えが浮かびます。

「多磨町やその近隣の農家が収穫した野菜を、多磨町の住民が買う機会を作れば、住民と農家のどちらも支援できるのではないかと思ったんです」

地元の方が丹精込めて育てた野菜が、飛ぶように売れていきます。
1時間も経たず、すべての野菜が売り切れました

このアイデアを青年会の会長でもある農家さんに相談したところ、「ぜひやりましょう」と背中を押してくれました。町会の役員からも賛同する意見が多く寄せられ、4月には野菜の販売会を行うことで大枠がまとまりました。さらに話し合いが進む中で、「キッチンカーが来てくれたらうれしい」「ステージで芸を披露できる場所があると楽しいのでは」など、さまざまな意見が活発に出たそうです。

「多くの方が、イベント開催のノウハウがない私たちにたくさん教えてくれました。準備や当日の運営などを仕切ってくれる町会の皆さんや、ボランティアとして快く名乗り出てくれた『てらこや』関係のメンバーたちにも感謝しています」

公会堂の玄関。靴箱には靴が入りきらないほど、たくさんの住民が訪れました

マルシェの今後を伺ったところ「今後も定期的に開催できるような仕組みを作っていきたいですね」と答えてくれました。

最後に、なぜ地域のためにそこまでできるのか、尋ねました。

「自分も不便な目に遭っているから、課題解決をしているだけで。みんなのために、地域のためにとは思っていないけど、結果そうなっちゃう」と、布川さんは笑いました。

まちが、動き出す

マルシェの午後から始まったステージイベントでは、自分の子どもや孫が晴れ舞台に立っているかのように見守る観客の拍手や笑い声が途切れませんでした。


ステージイベントはどのグループも盛り上がりました

プログラムの最後はやまびこ保育園の園児による合唱でした。子どもたちが一生懸命歌う姿を眺める布川さんやスタッフの、少し緊張がほぐれたような表情が印象的でした。

多磨町マルシェは、まちの人の思いが形になったものでした。
不便だと言うだけではなく、住民の声を集めて、小さなことから一つずつ形にしていく。マルシェは、その最初の一歩でした。初めての試みでしたが、スタッフの方も、お店を出している方も、来場者の方も、口をそろえて「こういうイベントは楽しくていいですね」と笑顔で答えてくれました。取材を終え、会場を後にするときには、朝からずっと忙しく動いていたスタッフの方が、初対面の私にも「お疲れさま」といたわってくれました。

このあたたかさが、多磨町のエンジンなのだと思います。
初めてのマルシェを成功させ、まちは、また新しい一歩を踏み出しました。

多磨町の皆さんの自然体の笑顔が素敵でした

多磨町の情報や次回以降の多磨町マルシェの予定は、ぜひFacebookをチェックしてみてください。
※写真は全て2026年7月11日筆者撮影

情報

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佐藤裕子

佐藤裕子

「地元には何もない」と嘆く声を聞いて育ちましたが、一歩外から見つめ直した故郷は魅力だらけでした。転勤で巡った各地でも同じ言葉を耳にするうち、住む人にとっての「当たり前」に光を当てたいと思うように。日常に隠れた地域の輝きを等身大で発信します。特技は南部せんべいのベンツ割りです。

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