山津波の記憶をアートで紡ぐ~東日本大震災の記憶を未来へ「作家たちの3.11展」【福島県須賀川市】

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須賀川市にある三世代交流館で地域ゆかりのアーティストたちが集って「作家たちの3.11」展が開催された。東日本大震災による藤沼湖の決壊をテーマにしたアート作品を通じて、震災の記憶を次世代に伝えるのが目的である。

▲会場の三世代交流館。藤沼湖のほとりにあり、宿泊も可能だ (撮影:2024年9月23日)
▲築100年以上の古民家の木材を再利用して復元。炊事場の奥には馬屋も。 (撮影:2024年9月23日)

熊本や広島、能登など、東日本大震災から13年が経過した今も日本各地で発生する災害は私たちの日常生活を脅かし続けている。藤沼湖決壊で犠牲となった8名の命を忘れず、その記憶を風化させないために、5人の作家たちが手を携えて開催に至った。

灌漑(かんがい)用ダム湖である藤沼湖の堤防が決壊したのは2011年の東日本大震災。貯水していた約150万トンの水が濁流となり、下流の集落を押し流し、死者・行方不明者8名を出した、もうひとつの『津波』の現場である。

それから2年後、水の無い湖底からアジサイの種が見つかった。

▲水がなくなった湖底から種が見つかったアジサイ。(撮影:2021年7月6日)

生育状況から、60年以上湖底で眠っていた種の可能性が高いと言われ、「奇跡のあじさい」として全国の”里親”に株分けされ大切に育てられてきた。

▲震災発生時刻で止まった時計とアジサイをモチーフにした安部さんの作品(撮影:2024年9月23日)

今回、銅版画家・安部直人さんがこのアジサイをモチーフにした版画を出品し、地元の陶芸家・伊藤文夫さんも自らの作品を通して震災の記憶を伝えている。さらに、斎藤隆さん、松田肖子(しょうこ)さん、長谷川雄一さんの3名も賛同し、彼らの作品も加わることで、多彩なアートがそろった展示会となった。

 藤沼湖決壊を語る上で重要な要素として、作品を通じた「記憶の共有」がある。作家たちは、震災という痛ましい出来事を一人ひとりの心に刻み、それを後世に残すことが使命であると感じている。特に、頻発する自然災害に対しては、記憶を風化させないための継続的な取り組みが不可欠だ。今回の展示会は、その一環として開かれ、2回目の開催となった。震災の記憶が次世代につながるよう、地元の人々と訪れる観覧者に強いメッセージを発信している。

「作家たちの3.11」展は、ただのアート展示ではない。地元を襲った災害への鎮魂と未来への希望が込められた作品が、須賀川という地に集まっている。会期中には作家自身が交代で訪れ、作品を通して直接的なメッセージを届ける機会もあった。藤沼湖やアジサイ、そして震災による犠牲者の記憶が、この展示会を通じて未来へと語り継がれていくことだろう。

昆愛

昆愛

福島県郡山市

第4期ハツレポーター

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2023年、「誰もいなくなった町。でも、ここはふるさと~原子力発電所と共存するコミュニティで“記憶”と“記録”について考える【福島県双葉郡富岡町】」で本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を2年連続受賞、また2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。

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