「この樹はずっと、樹齢800年」 ~日本三大秘境椎葉村の御神木~

日本各地に「巨木」や「神木」と呼ばれる木々は数あれど、ここまで霊性が高いというか、目の前に立つだけで「生かされている」という実感が沸き上がる御神木に私はかつて出会ったことが無い。


その御神木「大久保のヒノキ」は、九州のほとんど真ん中にある「日本三大秘境」宮崎県椎葉村に立っている。

大久保のヒノキが立っている椎葉村の大久保集落は、村へ熊本県側から国道265号線をたどり向かう途中に立ち寄ることができる。ちなみに大久保集落へ国道から向かう際に通り抜けることになる十根川集落も、重要伝統的建造物群保存地区とされている美しい場所だ。

参考:十根川重要伝統的建造物群保存地区<椎葉村観光協会>(https://www.shiibakanko.jp/tourism/spot/spot6


大久保集落に入ると間もなく、大久保のヒノキが立つ場所にたどり着く。ここまで車で向かうなら、たとえば熊本市内から行くには2時間半程度かかる。宮崎市内からは3時間半といったところだ。大久保のヒノキを観覧するための駐車場は、実は一般の方の敷地内にある。夜間の訪問は現地の方に迷惑がかかるので、時間には気を配りたいところだ。

駐車場から歩くこと1、2分で大久保のヒノキは御姿を顕(あらわ)す。ヒノキが視界に入ると同時に周りの空気がピンと張り詰め、一切の言葉は意味をなさなくなる。私たちがこの御神木の存在感を前にして漏らすことができるのは、ただ感嘆の言葉だけなのかもしれない。椎葉村教育委員会の名で立てられた看板には「推定樹齢800年」の文字がある。中世日本の時代から、この御神木は椎葉の人々をみまもり続けてきたのだ。

参考:大久保のヒノキ<椎葉村教育委員会>(https://www.vill.shiiba.miyazaki.jp/education/culture/ohkubo.php

参考:大久保のヒノキ<椎葉村観光協会>(https://www.shiibakanko.jp/tourism/spot/spot5


以前私が大久保のヒノキを訪れたとき「管理人」と名乗る方に出会った。その方に「樹齢800年、凄いですね」と投げかけてみると、意外なことに「800年かどうかなんてわからん」と返ってきた。

「どういうことですか?」と訊く私に、管理人さんは得意げな顔でこう言った。


「この樹はずっと、樹齢800年。俺どもが小さい頃からずっと樹齢800年よ」


呵呵として笑う管理人の年齢は、老齢のそれに達しているだろう。そうすると大久保のヒノキは樹齢900年か、もしかすると1,000年を超えているというのが本当のところなのかもしれない。

でも「本当のところ」とは何だろうか。この御神木を前にしては、たった数百年の違いなど何の意味をもなさないように思う。「ずっと800年」でいいのだ。


私はその老人と共に笑い大久保のヒノキを見上げながら、声にならぬ明るい祈りを捧げた。

小宮山剛

宮崎県椎葉村/第3期ハツレポーター

博多生まれ。慶應義塾を卒業後、静岡の都市ガス会社に就職。新聞記者に転身したのがライター人生のはじまり。今は宮崎県の「秘境」椎葉村にて椎葉村図書館「ぶん文Bun」を運営中!
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