「共助の精神を現代に」田舎と都会、人と自然のつながりを多彩に紡ぐ21世紀の新集落プロジェクト、森山ビレッジ【秋田県五城目町】

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あきたの物語」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。

五城目町のシンボルである森山

秋田駅、秋田空港から約40分の秋田県中央部に位置している五城目町。この人口約1万人の町に、新しい集落「森山ビレッジ」が誕生します。

集落の5棟の民家は、デジタル技術を応用し地域の木材を切り出して建築されました。特徴的なのは、五城目町内外を問わず「21世紀の集落」に賛同した人たちが全国から集まり、建材の加工や組み立てなどの各工程に参加して作り上げていることです。

また、クラウドファンディングなどで全国から募った村民(メンバー)は、宿泊はもちろん、二拠点生活の場としてなど、用途は問わず利用することができます。関係人口の創出にも寄与するこの実験的な集落づくりをスタートさせた5人の「言い出しっぺ村民」のひとり、丑田俊輔(うしだ・しゅんすけ)さんに、プロジェクトに対する思いをお伺いしました。

森山ビレッジ「言い出しっぺ村民」のひとり、丑田俊輔(うしだ・しゅんすけ)さん

都会と田舎の間に、いろんな関わり方や暮らし方がある

2014年に東京から移住した丑田さんは、仕事の拠点のある千代田区との姉妹都市というご縁で五城目町と出会い、2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに「暮らす場所や子育てする環境を見つめ直していきたい」ということも重なって、「タイミングとご縁がつながり」引っ越すことになりました。

「五城目町で暮らし始めて、東京といちばん違ったのは子育ての環境でした」と、丑田さんは語ります。「五城目町では集落の町内会、朝市の商店街の人々、一緒にプロジェクト活動している仲間など、子どもが出会う大人の数が東京よりもだいぶ増え、里山や森をはじめ環境との関わりが多様になりました。忙しい時はどこかの家に子どもを預かってもらったりなど、いろいろな方が協力してくれて、「共助」や「ペイフォワード(自分が受けた善意をほかの誰かに渡すこと)」のような豊かさが残っていると感じました。子どもの学ぶ環境は非常に豊かで、助け合いながらお互いのつながりの資本の中で日々を楽しんでいけるのは、秋田の魅力だと思います」。

朝市通りで元気に遊ぶ子どもたち

五城目の子育て環境に満足しながらも、丑田さん自身は引っ越してから「これからの時代の暮らし方として都会か田舎のどちらかに偏れない、都会と田舎の間にいろんな関わり方や暮らし方があるんじゃないか」という思いが湧いたと言います。

「森山ビレッジ」の源泉となった「シェアビレッジ」プロジェクトに参加

古民家シェアビレッジでの茅葺き屋根葺き替え風景

そうしたなか、2015年に茅葺き古民家を利用した「シェアビレッジ」事業にも参加しました。こちらは一棟の古民家を舞台に、全国から会員(村民)を募集し自由に利用してもらうというプロジェクトで、「地域のさまざまな方や近隣自治体も含めた起業家仲間、プロジェクトの村長である北秋田市の武田さん、農家さん、五城目町の茅葺き古民家との出会いの中で生まれました」と、丑田さん。

丑田さんは、このプロジェクトが「森山ビレッジの源泉になった」と、言います。「茅葺き古民家を舞台に、楽しみながら田舎と都会を繋いで行き来するようなライフスタイルを生み出していく地域発の取り組みが、メッセージとして投げかけられたと思います」。

まさに、「都会と田舎の間でさまざまな暮らし方がある」という、丑田さんが引っ越し当初に感じた想いを形にした瞬間でした。

古民家シェアビレッジを訪れる、村民のみなさん

「家は集落みんなで作るもの」暮らしや自然との共助を現代の姿に再構築して、21世紀に新しい集落を作る

建築中の「森山ビレッジ」

2023年、その経験を活かして今度は茅葺き古民家と同じ町内に、新しい集落「森山ビレッジ」を作るプロジェクトを立ち上げます。

プロジェクトに際し丑田さんが心に留めたのは「家というのはもともと個人の所有でもありつつ、集落みんなで作るもの」という、シェアビレッジの舞台となった茅葺き古民家オーナーのおじいちゃんの言葉です。かつては家の建材となる木材は近隣の里山から切り出して、茅葺き屋根は集落のみんなで葺き替えていました。

「共助という精神性が茅葺き古民家の中には詰まっていて、みんなで協力し合いながら地域の木材や自然の資源も引きだして住まいを作る。そういう作り方を継承しつつも、もう一度、現代ならではの姿で再構築してみようというのが、森山ビレッジの最初の着想でした」。

切り出した木材についての打ち合わせ風景

地域の資源を活用するということを意識した丑田さんは言います。

「秋田にはそこらじゅうに里山があり杉がありますが、暮らしの中で使えていないというのを改めて感じました。昨今の土砂災害や洪水などの問題も、山の管理に起因することがあるかと思います。熊が町に出没するのも、里山に餌がなかったり、里山に人が入らなくなっているという話があったりするので、秋田や五城目で暮らすなかで、リアルな課題として山を生かしていくというのがもっとできたらいいなと思っています」。

山から切り出した木材の加工にはデジタルファブリケーションという技術を活用し、パソコン1台で設計・出力して家屋の壁や屋根などを作っています。

「これを使えば、どの地域でも住宅や家具など木材を加工して暮らしに利用できます。自分たちのやりたいことが簡単に実現できる技術の活用は、今回のプロジェクトで真ん中に置きたかったことのひとつです」と、丑田さんは語ります。

工程ひとつを取っても、さまざまな人が関わります

豊かな関係性やつながりの資本が、新しい事業を作っていく時の醍醐味

森山ビレッジ内装の作業

今回のプロジェクトでは、五城目住人や観光客など、全国から多数の方が森山ビレッジの家づくりに参加しました。まさに、関係人口の実践です。

プロジェクトに参加したメンバーとのつながりは、作業のみにとどまりません。集落づくりに参加しながら、五城目小学校の教育留学に参加するご家族がいらっしゃったり。シェアビレッジをきっかけに移住した方が森山ビレッジの言い出しっぺ村民のひとりとなり、さらにコミュニティドクターとして地域に根ざした様々な活動を行っていたりと、着実に広がりを見せています。

「秋田で出会う縁で人生が変わる、そういうつながりが広がっていくのはうれしいですね」と、丑田さんは感慨深げに語ります。

「秋田に住み始めてから、いろんな人や里山などの自然とかのつながりも深まっていって、お金の資本だけじゃなくて、関係性やつながりの資本が豊かになればなるほど、新しいプロジェクトを作ったり、助け合ったり委ねあったりできるというのが、田舎で暮らしたり新しい事業を作っていったりする時の醍醐味だと思うようになってきました」と、丑田さん。

「小さく建てて町で広く暮らす」。地域の人々と関わる暮らし方に参加して、社会への影響を感じませんか

五城目町朝市通り「ただの遊び場」で、楽しく遊ぶ子どもたち

そんなさまざまな人が関わり完成していく森山ビレッジですが、丑田さんはこのプロジェクトは、「5棟の住宅で全て終わらないと思っています」とも。

森山ビレッジの住居は、一棟の一階の床面積が9坪とか10数坪と結構小さいものの、その分その分建築費も抑えられるといいます。丑田さんは、自宅の装備を高めるよりも、例えばお風呂は地域の「湯の越温泉」、子ども部屋は朝市商店街の施設「ただの遊び場」、書斎やライブラリーはシェアオフィスの「ババメベース」を利用して、「小さく建てて町で広く暮らす」ことを推奨しています。「それぞれの地域の方々や集落の方々とも日常の中で接する機会を多くするという暮らし方を提案していきたいというのが、森山ビレッジ設計の全体像なんです」。さらには、「森山ビレッジの生活に馴染んでくると、焚き火の場所やサウナが欲しいなど、コミュニティの中で生まれてくるアイデアが出てくると思います。それによって、どんなふうに町や暮らしに変化を及ぼすのかを眺めていきたいです」と、その広がりに期待をかけます。

森山ビレッジに関わることは、まさに関係人口そのものと言えます。

丑田さんは、「地域の森林から住まいを作って、半径30km圏内で多様な住まい方が育まれていくこのプロジェクトが、いろんな場所で生まれたらいいですね。里山の手入れを行い、森林を活用し住宅を作ることが地域の経済を循環させる一つのモデルになれば」と、プロジェクトに対する熱い思いを語ってくれました。

現在、五城目町と同様に、里山の山林を生かしきれていないという課題は全国各地に存在します。

2024年1月にお披露目となる「森山ビレッジ」が、五城目町のみならず、社会にどのような影響を与えるのか注目されます。

上空から見た、森山ビレッジ

合同会社森山ビレッジ では、秋田に想いを持つ「関係人口」の関わりを募集しています。

森山ビレッジ

予約サイト
https://moriyama-village.snack.chillnn.com/snack/home

「森山ビレッジができるまで」
https://vimeo.com/925707848

お問合せはこちらから
moriyamavillage@gmail.com

森川淳元

森川淳元

秋田県秋田市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター
秋田県北秋田市出身です。少しばかり出版や取材などに関わったことがあり参加させていただきました。レポーターになり、改めて秋田ならではの面白いところを深掘りできたらと思います。

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