
ねぶたやねぷたの祭りで有名な青森県。津軽地域に属する平川市では、高さ12m、幅9.2m、重さ約6t もの巨大なねぷたを運行しており、「世界一の扇ねぷた」として展示が行われている。
そんな青森県平川市で活動しているのが「新ねぷた集団わらはんど」。2024(令和6)年に結成し、昨年の夏初めてのねぷた運行を果たした新進気鋭の団体だ。町内会単位での出場が多い中で、わらはんどのねぷたにはなんとおよそ50人もの人々が集まったという。中には夏休みを利用して訪れた首都圏からの参加者もいたそう。
その求心力の根源を探るべく、キャプテンの福士雄大(ふくしゆうた)さん、奥様でマネージャーの香穂(かほ)さんにお話を伺った。
目次
伝統と挑戦の間での葛藤。自分で団体を
もともと、自分が生まれ育った町内会のねぷた会でねぷたを出していたという雄大さん。しかし、活動の中で”今までのやり方を守りたい”人々と、”新しいことに挑戦していきたい”人々の間にずれを感じ始めたそう。伝統を守るのも必要だが、せっかく参加した若い人たちが意見を聞いてもらえず面白くないと感じてねぷたに参加しなくなってしまうのは悲しい。
葛藤を抱えながらねぷたに関わっていた雄大さんの背中を、「それなら自分でやればいい」と押したのが香穂さんだった。同級生など身近な人たちに声を掛け、人づてに話が伝わり現在の形に至った。
2025(令和7)年は市内からの参加者だけでなく、青森市や黒石市といった近隣市町村や、なんと神奈川県からの参加者もいた。青森県に住むおじいちゃんが夏休みにやってくる孫に、自分が小さい頃に味わった祭りの楽しさを知ってほしいということでわらはんどにやってきたのだという。
新たな形のねぷた団体だからこそ、ねぷたの熱を届けられる人々がいる。そのことが目に見える形で表れたのが県外からの参加者だろう。
薄れゆく人と人とのつながり。「居場所をつくりたい」
SNSやAIを用いたコミュニケーションが普及し、実際に人と触れ合う場面が以前に比べて少なくなっている現代社会。その中で、自分たちが子どもの頃に味わったような”リアル”を体感してほしいと雄大さんは考えている。
加えて、地方全体が抱える課題でもあるが、平川市では進学や就職を機に多くの若者が市外に転出する傾向にある。そんな人たちが戻ってきたいと思える場所があり、帰ってきて話せる人がいる地域にしたい。
地元を離れ都市部へ出て行ってしまった人が帰って来れる場所、そして地域の人と生に接する機会をもつことで一人で抱えがちな孤立感を和らげられたら、と雄大さんは語る。
「何か楽しいことがあれば、もしかしたら戻ってくるきっかけになるかもしれないし、そういうものがないと戻ってきたいと思えないじゃないですか。だから居場所をつくっていきたい」
この思いは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による行動制限によって人の集まる場所がことごとく禁止されたことにより、より強くなった。
コロナ禍の2020(令和2)年、全国的に祭りが中止となる中、平川でも例にもれずねぷた祭りが中止となった。翌年になってもやはり祭りは開催できなかったが、囃子(はやし)の披露などは許可されていた。そこで、囃子をやると告知すると、地域の人々が続々と集まり、中には今まで地域活動に積極的ではなかった人の姿もあった。
演奏後に雄大さんが話を聞いてみると、その人はそれまでは囃子を練習する音や子どもが騒ぐ声などをうるさいと感じていたそう。しかし、実際に祭りがなくなってみると寂しくなって、演奏を聞きに来たと話した。
そのときに、雄大さんはねぷたや囃子が人の居場所づくりにつながることを再確認した。
祭りやねぷたの魅力をより多くの人に届けたいというのももちろんあるが、その根幹には常に「居場所づくり」という目的意識がまっすぐ通っている。

「新ねぷた集団わらはんど」に込められた思い。子どもたちに大人の背中を見せる
雄大さんらは、「新ねぷた集団わらはんど」という名前を掲げている。
「新」には「常に新しいことに挑戦する」という意味が込められている。「ねぷた集団」という表現は、大きな家族のような、ねぷたを通じたみんなの居場所をつくり上げたいという思いからできたのだという。
そして「わらはんど」とは、津軽弁で「こどもたち」を指している。
子どもはもちろん、大人も子どものように楽しむ。大人になるとどうしても無邪気になることを忘れてしまうが、それを思い出してほしい。そして、大人が全力で楽しむ姿を子どもたちに見てほしい。
「挑戦する自分たちの姿、楽しそうにしている大人たちの姿を見て、いつか自分たちもああなりたいと感じてほしい」
さらに特徴的なのが、代表の雄大さんや副代表の香穂さんの肩書が「キャプテン」や「マネージャー」だということである。
会長というと「逆らえない、組織のトップ」というような響きが含まれてしまうように感じられる。そうではなく、スポーツチームのキャプテンのように、チームを引っ張る存在にしたかったのだと香穂さんが話してくれた。だから、経理などの業務を担当する香穂さんも、副会長ではなく「マネージャー」。
「会長っていう絶対的な立場ではなく、中に入って一緒にプレーもする。チーム内で中立な立場としてのキャプテン。みんなで同じ目標に向かって一緒に頑張っていこうねって」
実際にインタビューを通じて、雄大さんと香穂さんで団体の目指すところが共有されていて、わらはんどが一つのチームとして活動されていることが伝わってきた。

名を体現する新たな取り組み。出会いを大切に協働して楽しいを生み出していく
そんなわらはんどの姿は、子どもたちだけでなく別の分野で活動する大人たちの目にも魅力的に映るのだろう。Instagramでの発信などから声がかかり、2026(令和8)年もいくつか新しい取り組みを行っているという。
その一つが、弘前市を拠点に森林再生などに取り組む「ReNeW津軽」との共同プロジェクトである。津軽塗という青森県津軽地域の伝統工芸は原料として漆を用いるが、その9割以上を輸入に頼っている。そこで、青森県で漆を栽培し地産地消を目指すプロジェクトが始動させたのが「ReNeW津軽」である。
漆を加工する過程でとれる蝋(ろう)は、実はねぷたの制作に欠かせない材料。蝋は内部からの光を通し美しくねぷた絵を浮かび上がらせる、にじみを防いで色の境界線を綺麗に生み出すなど重要な役割を果たしている。そんなねぷた制作に用いる蝋に、青森県で育てた漆からとれたものを利用し、世界初の漆蝋ねぷたを運行しようとしている。
「やりたいことをちょっとずつ形にしていくと、それを見てくれる人が必ずいる」
「偶然的に出会えた人たちがつながっていって、みんなで協力して楽しいことができているんだっていうのを子どもたちに見てほしい」(雄大さん)
地域全体で見つめる未来。ねぷたを、居場所を全国へ
新ねぷた集団わらはんどは、その名に違わず新たな挑戦をし続けている。その試行錯誤の過程を他のねぷた会にも共有し、それぞれが抱える担い手不足といった課題に取り組んでいければと雄大さんは語る。
「自分たちだけが得するんじゃなくて、全体が得する仕組みをつくっていきたいなっていうのはありますね。こういうやり方もあるんだぞって、全体で盛り上げていければ一番です」
将来的には、市外、そして全国へねぷたの魅力や居場所を広げていきたいという。居場所をつくり、そこでの活動を通じてみんなで「楽しい」を生み出しながら、その背中を子どもたちに見せていく。一つの通った軸を持ちながらも、枝分かれしていろいろな活動に展開していく様は目が離せない。
新ねぷた集団わらはんどの活動の様子や新しい情報はInstagramから確認できる。新しい挑戦の様子を追いかけてみると、気づけば参加したくなってしまうように思う。

※写真はすべて福士さん提供
情報
新ねぷた集団わらはんど
Instagram:https://www.instagram.com/neputa.warahando?igsh=cTB0bHZkNWJzaGh6





